子どもの肥満
兵庫県小児科医会小児保健委員会副委員長 平海光夫
文部科学省が発刊する学校保健統計報告書によれば、学童の肥満は確実に増加して最近30年間で2〜3倍になり、10人に1人の学童に肥満傾向児が見られる時代になっています。小児の肥満は成長に伴う変化など成人の肥満とは異なる幾つかの特徴が見られますが、成人期の肥満に移行して生活習慣病の成因になる場合があり、小児期の健康管理の面からも、成人期の循環器系疾患予防の為にも小児期の肥満対策は重要です。
1)肥満の判定
肥満とは体脂肪の異常な増加であり、脂肪の体内分布により皮下脂肪型肥満と内臓脂肪型肥満に分類され、成人や年長児の内臓脂肪型肥満では糖尿病などの代謝異常を伴い易いと言われます。肥満の判定は本来は体脂肪量の測定によりますが、正確・簡便で実用的な体脂肪量の測定法がない為に、身長と体重など身体測定値から作成した指数を用いて肥満の判定が行われ、BMIと肥満度がよく使われます。
BMIは国際的に肥満判定基準に使用され、我国でも成人の肥満判定に使用されます。しかし、小児期では成長による身長・体重の変化が一様でないためにBMIの年齢的変化が見られ、時間を追った評価が必要な肥満判定には不適切な指数で、我国では小児の肥満判定基準には肥満度が用いられます。肥満度は標準体重に対する過体重度を見る指数で『(測定体重−標準体重)/標準体重×100%』の数式で求めます。標準体重は身長を変数にした計算式で求めますが、身長が70〜118pの幼児については母子健康手帳に記載されている「幼児の身長体重曲線」から肥満度が求められます。肥満度は幼児期から思春期までの肥満判定に使用可能な指数で、長期間の経過観察中に身体測定値の年齢的変動が生じる小児肥満の観察にも適した指数です。肥満度の基準値は正常体重を肥満度±15%の範囲として、肥満のスクリーニングには幼児では+15%以上が、学童期以降は+20%以上が肥満と判定されます。小児肥満の評価には一時点の肥満度だけでなく、過去の肥満度と比較した縦断的観察による評価が望ましく、年齢とともに肥満度が上昇する症例は注意が必要で医療機関における代謝検査や体脂肪率測定などの臨床検査が必要の場合があります。
2)子どもの肥満と年齢別対応
肥満の成因には遺伝的因子と環境因子があり、環境因子ではエネルギーの摂取量の増加 (食生活)とエネルギー消費量低下(運動)が主な成因で、子どもの肥満対策には両親の肥満等遺伝的要因への考慮と生活習慣の評価が中心になります。子どもの身体的発育は発育の時期により体組成と身長・体重の変化の程度が夫々異なるために、子どもの肥満への対応は単一でなく、年齢的変化を考慮した対応が必要です。
1.
2才まで 2才までの肥満は非常に高度の場合を除けば、健康障害が合併しない心配のない単純性肥満で、ミルクを薄めるなど特別の対応は不要です。但し、この時期は子どもの生活習慣が両親の生活環境や生活行動の影響を受けやすく、この影響は食事量よりも運動量への影響が大きいと言われています。両親にも肥満が見られる場合は活発で運動量の多い日常生活によりエネルギー消費を増加さす生活習慣が望まれます。
2.
2才から就学期 2才から就学期までに見られる肥満は、幼児が生活習慣の基本を学び取る時期に発生しやすく、この時期の肥満に関係する生活習慣は学童期や思春期にまで連続持続して学童期や思春期の高度肥満の成因になりやすいく、生活習慣の見直しと健全な生活習慣の指導を含めた対応が必要です。生活習慣を見直して食事や間食の量や回数、身体の運動と遊び、睡眠時間などの好ましいライフスタイルの基礎を身に着けるとともに、 学童期以後の健康的な生活習慣の動機付けを開始する時期です。また、幼児の生活習慣の見直しは親の生活習慣の見直しにもなり、適当な運動の奨励とともに正しい食生活の習慣を身に着けるなど家族全体の肥満対策にも効果的です。
3.
学童期 学童期の肥満は思春期や成人期の高度肥満や動脈硬化性疾患へ発展する可能性が大きく、医療的な対応が必要な場合があります。また、肥満による体型変化や運動能力の低下など肥満による身体的変化が心理面へ与える影響も大きく、不登校・うつ状態・心身症の原因になることがあります。「食べること」と「運動」のバランスの崩れがこの時期の肥満の大きな原因で、規則正しい生活習慣と生活行動の維持が重要です。食行動ではしっかりした朝食を含め規則正しい一日三回の食事摂取、適当な間食や夜食など正しい食習慣を身につける事が必要です。一日二回の食事では必要エネルギーを確保する為には一度に沢山の食物を摂取する事になり、その結果過剰の糖が脂肪として皮下に蓄えられ、肥満につながります。また、エネルギー代謝には日内変動があり、摂取エネルギーは夜間の方が皮下脂肪に蓄積されやすく、過度の間食や夜食も肥満に関連すると言われます。日常生活の行動面では、テレビ視聴時間が長いほど肥満の程度が強いという報告があり、長時間のテレビゲーム、パソコンなど室内の遊びは運動量の低下と消費エネルギーの減少を来たして肥満の原因になると考えられます。学童期以降の肥満も生活の基本とリズムを守った規則正しい健康的な生活習慣が効果的な肥満児対策の第一歩と思われます。


